2013年4月26日金曜日

映画『天使の分け前』――僕らは落ちこぼれに嫉妬する

映画がはじまってすぐに、見る人が覚えるのは安堵感、もしくは優越感だ。

スコットランドの一地方都市で行われる裁判。そこで人生の落ちこぼれたちが次々に裁かれる。盗みをしたもの、他人を傷つけたもの、迷惑行為…理由はさまざまだ。

スコッチウイスキーの故郷スコットランド。育った環境のせいでケンカ沙汰の絶えない若き父親ロビーは、刑務所送りの代わりに社会奉仕活動を命じられる。そこで出会ったのが指導者でありウイスキー愛好家であるハリーと、3人の仲間たち。ハリーにウイスキーの奥深さを教わったロビーは、これまで眠っていた“テイスティング”の才能に目覚め始める。ある日、オークションに100万ポンドもする樽入りの超高級ウイスキーが出品されることを耳にしたロビーは、人生の大逆転を賭け、仲間たちと一世一代の大勝負に出る!

これはどこか遠い世界の出来事だろうか?ある人々にとっては、そうだ。異国の地であることも相まって、彼らが自分たちの住んでいる世界とは違う位相の住人だとし、自分たちの優位を認め、優越感に浸ることができる人々。

あるいは彼らの中に自分たちの隣人、もしくはあり得たかもしれない自分の姿を見る人たちもいるたった一度の失敗が人を傷つけ、人生をダメにしてしまうこともある、と知っている彼らはそれゆえ、主人公たちに対し、ある種の寛大さを持って見ることができる。そしてもちろん、安堵も。

しかし物語が進むにつれ、その安堵と優越は少しづつ崩される。才能という、共感の余地なき要素が、物語の重要な位置を占め、歯車を回していく。

更生の道を歩み始めた主人公を応援していたはずが、いつの間にか彼の決断と行動に不満を抱き、同意できない気持ちがつのる。

その気持ち、たぶん嫉妬だ。

平凡さに囲まれていると、決して手にすることのできない(ような気がする)センスと、それを活かしてくれる周囲の大人たち。好転する運命の輪に彼の社会から落ちこぼれた、その境遇さえも特権的に思えてくる。

だが思い出してほしい。その才能と理解ある周囲の大人たち、それに今後の人生を棒に振るリスクを負ってまで主人公のロビーが求めたものを。それは、お金と、家族と、仕事がある、安定した普通の生活。一世一代の大勝負の掛け金は未来、そして得られたものは一人当たり25000ポンド(約380万円)の現金。天から降ってきたのなら大金だが、未来を賭けるにはいかにも少ない。そのお金と僥倖と才能をもってしても、育った環境から脱するのに精いっぱいだ、ともいえる。

結局これは、人生の平凡さを賛美する映画だ。監督のケン・ローチは、現在の若者が直面する問題を正面に据えながら、その先に人生の平凡さと愛おしさを透かし見せる。

Vive la banalité ! / 平凡万歳!
 
Au revoir et à bientôt !
 
映画『天使の分け前』公式サイト:http://tenshi-wakemae.jp/

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