Pascal Garnier / パスカル・ガルニエ (1949-2010) はパリ生まれのフランスの作家。若い頃には放浪し、職を転々とする。ロックンローラーを志していたこともあったようだ。35歳のときに作家になることを決意、以降多数の作品を出版。ミステリーから若者向けの小説まで幅広く書いていた。彼の書く登場人物は、「シメノン風の」ブラックユーモアが特徴。
今回読んだ彼の作品は、『Comment va la douleur ?』 。私が訳すなら『痛みはどうだい?』。
ちなみにこの表題には対になる表現、"Comment va la santé ? / お元気ですか?" が存在する。これは現在、口語でのみ使用される表現だ(本来は、"Comment ca va ?","Comment vas-tu ?" など)。パスカル・ガルニエはこの表現を念頭に置いていたと思われるが、果たしてどうか。
――なんと言うか、ハードボイルドだぜ。
ほんの少しだけ内容を紹介しよう。
若くて世間知らず、純真無垢なベルナールは、ある温泉街で自称ネズミ駆除業者のシモンと出会う。ベルナールのことが気に入ったシモンは、彼を短期間の臨時運転手として雇うのだが、実はシモンには秘密があった…。
私が気に入った場面は二つ。一つは小説の冒頭場面。
シモンに呼ばれたベルナールは、部屋で首吊り死体を見つける。なんとなく彼は、机の上にあった食べさしのリンゴに手をつける。
ひどい味だった。近頃はまともなリンゴなんてめったにお目にかかれない。また、くしゃみが出た。この一週間、雨が降り続きのような気がする。彼は部屋を出、後ろ手に扉を閉めた。死体にさよならを言うのは野暮だろう。廊下の突き当たりにあるエレベーターは満員だった。ベルナールは階段で下りた。
もうひとつは、シモンの仕事が人殺しと判明したときの二人の会話。
「あなたの仕事ってのが、ようやく僕にもわかりましたよ」
「それで?」
「どうもないです。なんにしろ普通じゃないのだけは確かですが」
「必要悪さ。注文がある限りはやらなきゃならん」
「それでも僕からすれば、あなたがネズミの駆除だけしてるほうが良かったですけど」
「ネズミと人、どこが違う?どちらも殺してもまたすぐに湧いてくる」
全体を紹介していないのでわかりずらいのは承知だが、ここには明らかにレイモン・チャンドラーの人物造形に連なるものがある。シニカルさとユーモアのないまぜになった男たちは、今の時代を生き抜くには、少しばかりカッコ良すぎるだろう。
Au revoir et à bientôt !
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