Jules Supervielle / ジュール・シュペルヴィエルの短編小説、"L'enfant de la haute mer / 沖合の少女" は、大西洋の孤島に一人住む、12歳の少女の物語だ。
これまで他の人間を見たことがない少女は、水平線上に船が現れると、猛烈な睡魔に襲われて寝入ってしまい、それとともに集落はその姿を波間に隠す。それゆえ船乗りは誰もその姿を見たことがない。だがある日、少女は船を見つけて…。というお話。
こんな風にあらかじめ、幻想小説の体をとっていれば、我々もすんなりと受け入れられるのだが、現実はそう、甘くない。
オーストラリアとフランス領ニューカレドニアとのほぼ中間、南太平洋上にあるとされているサンディ島(英:Sandy Island 仏:L'ile de Sable )。Google Earth にもその存在が記載されているが、今月22日、オーストラリア地質学チーム「サザン・サーヴェイヤー(Southern Surveyor)」の調査過程で、実在しないことが明らかになった。
なんでもこの島、古くは1792年にはすでに文献に記載されていた、というから、この幻の島は200年以上も地図上に存在し続けたことになる。
もはや完全にシュペルヴィエルの世界だ。
島が作られたそもそもの理由が過失によるものなのか、あるいは意図的なものなのか、今となっては知る由がない。「あると信じられていたものが実は存在しない」という考えは、人間にとって実に馴染み深く、同時に畏怖の対象である。サルトルならそれを、「実存の孤独」と呼ぶだろう。シュペルヴィエルはそこに、他者との繋がりを見出す。
沖合の少女はどのように生まれたのか?
物語の最後に示される説明ではこうだ。少女は、四本マストの帆船アルディ号に乗っていた Charles Liévens というステーンヴォルド出身の水夫によって生み出された。彼は12歳の娘を亡くしており、航海中もたびたび彼女のことを思っていた。ある夜、ある場所で(ご丁寧にもシュペルヴィエルはそれが北緯55度、西経35度の位置だと指定する)、彼が亡くした娘をあまりにも強く、長く思い続けた結果、沖合の少女は生まれたのだ、と。少女はある人物の想像の産物なのだ。
さて、それではサンディ島はいったい、誰の想像の産物なのだろう?そして我々は?
Au revoir et à bientôt !
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Google Map 上のサンディ島 |
*日本のニュースではあまり紹介されていない様子だが、Wikipedia 上に記事が存在する。 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3%E5%B3%B6_(%E5%B9%BB%E5%B3%B6)
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