2012年4月29日日曜日

エジプトの魔術師、インドの軽業師 Ⅰ- 2

前回より…

誰もその幻想を説明することができなかった。しかしこの黒人の少年から、それらしいものは呼び出せたわけだ。
この中断のあいまに、呪術師は魔法のナンバーを呟きながら、紙切れを燃やし続けた。見物客たちは煙草を吸い、コーヒーが絶え間なく回された、活気が戻ってきた。今度は識別の容易いF.S卿を呼び出すことで合意した、というのも彼は片腕をなくしていたからだ。新しい黒人が呼びいれられ、同じようにインクの滴に頭を近づけた、沈黙が支配した。

F.S卿!集まりの中から誰かが言った。少年は繰り返した、音節ごとに、少年に向けて発せられた言葉を。前任者同様、彼もたくさんの馬を、ラクダを、旗を、それから音楽隊の一団を見たと言った。これはごく普通の前奏で、混沌はインクの滴が照らす要求された人物の前でどうにかやっていた。

アルビはフランス語も英語もイタリア語も解さなかった。しかしながら、公衆の表情を読み取るのに長けていて、人々が彼になにかしら特別な印を求めていることを察した。かつてネルソン卿の降霊を頼まれたときのように、誰もが知っているように、卿は片腕片脚を欠いていた。幸いにも英雄の名声によって、彼はそのことを知っていたのだった。今回もまた、彼はそれと似た雰囲気を感じた。混乱した返答のあとに、少年は叫んだ--男性が一人見えます!キリスト教徒で、ターバンは巻いてません。緑の服を着ています…腕が一本しかない!この言葉に、我々は微笑みを交わした、それは敗北を認める微笑だった。これは魔術に違いない…私の隣の常識的人物はそれでも、ものすごい音を立てて水煙管の水を沸かしたあと、アルビを見つめた。私は我々の思考が占い師によって間違って解釈されているのに気付いた、彼の確信は揺らぎ、我々が哀れみから笑っているのだと推測した。それで彼は少年に詰め寄った――片腕しか見えなかったって?それでもう片方は?――少年は答えなかった。巨大な沈黙がその場を支配した。紙片がコンロの上で素早く燃え上がるのが聞こえた。――もう一方の腕は、黒人の少年は答えた…見えます。この方はもう一方の腕を背中にまわしています。その手で手袋を持っています!

最初の人物は三本脚があり、二番目は片腕のみでなく、完全な身体を有していた!…集まりはだれてきていた。この経験と自分のいる場所、私は偉大なるアルビと相対していた、に疲れ、私は腰掛けから立ち上がり、この家のテラスに上がった。

壁にもたれてそこに立ち、透き通るような月光に照らし出された真夜中、正面には優美なたくさんのモスク、その上を舞うワシやノスリ【鳥の一種】のシルエットが際立っていた。自分の長パイプに火をつけ、私は空想に身をゆだねた。

地平線に宮殿が姿を見せた。クレベールが殺害されたそのバルコニーが見える。私にはそこかしこで、美しくすらりとした形をした、マルムークの、とりわけオスマン・トルコ帝国の現代風ミナレットがそびえ立っているのが見えた。東洋が、再び、沈黙の夜と神秘に満ちた家々を通して私の中に湧き上がった。あれは半世紀後にあり得るであろう出来事みなを述べるのに巧みな呪術師だったのだろう、私はそんな思いに至った。

アルビは完全に失敗したわけだった。しかしながら結局のところ、あの黒人の少年は己の手のくぼみになにを見たのだろう?いったいどのような笑劇が演じられたのか?偶然にも私は、それを知ることとなった。

一ヶ月後、ゼノビィ(船)に乗って、ボンベイに向かう途中で、私は聖…中尉とその黒人従者に再会した。彼はアルビの相棒役を勤めた少年だった。――あれは確かに魔術的な一夜だった。紅海の穏やかな潮流が、アラビア海岸の巨大な山々の足元に広がる砂浜をゆったりと浸していた。星々が、水中に反映して青白い閃光のように見え、船の舳先で揺れ動いていた。申し分ない瞬間が選ばれた…聖…中尉は私に次のようなことを明らかにしてくれた。 

アルビの偉大な芸術は、彼が神秘的な言葉を呟いているように見えるあいだに、集まった他の人々がそれと見分けぬうちに少年に知識を授けるところから始まる。まず相棒となる少年にその場限りの悪魔を見せて怖がらせる。次いで、彼にとりわけ間違って聞こえるような返答を強要する(そう、三本脚の女性の場合のように)、それから、無理やり話させるために、彼の足指をおぞましいやり方で圧迫する。公衆の視線からは隠されたところで操作される魔術師の包まった長衣によって。もし上手く言い当てられたなら、それは魔術師の栄光による当然のものだし、もし失敗したら間違えたのは少年、というわけだ。
しばしば偶然が見事な結果をもたらしていた。それゆえインクの滴はすべてのエジプト人に実効性のあるものと認められており、アルビは長いあいだ愉快な夜を支配してきたのである。

これで第一章が終了です。ほぼ同じ分量の第二章(インドの軽業師のパート)がありますが、それは別の機会に。

これを読んでいかがでしょうか?「うわー、めっちゃ下手な翻訳やな」と思いましたか?私も思いました。というか、文の構造的にわかっていないところがいくつかあって、まだまだだなぁと思い知らされた次第です。しかしまぁ、パヴィの文章の雰囲気だけでも感じてもらえたなら幸いです。これを読んでいるとE・W・サイードのいうところの「オリエンタリズム」を感じずにはいれませんが、それとは別に、こういう旅行記というのはなかなか面白いものですね。私も大好きなジャンルです。

では、また。
Au revoir, à la prochaine fois!
Lyon に気持ちだけでも旅行に行く。

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