2012年4月26日木曜日

エジプトの魔術師、インドの軽業師 Ⅰ-1

おはようございます。
今日からテオドール・パヴィの『Les Harvis de l'Egypte et les jongleurs de l'Inde / エジプトの魔術師、インドの軽業師』の翻訳をお送りしたいと思います。テオドール・パヴィについては前回のブログを参照してもらえれば。おそらく4分割になるでしょう。私の個人的感想などは、最後に。では。

いつの時代も、エジプトには魔術師たちが存在した。モーセと競った占い師たちは、多くの驚異をもたらし、ゆえにヘブライの立法者にとって、彼らとの戦いに勝利するためには、エホバの全能なる力を授かることが必要だった。カバラ秘教、魔術、神秘学、いずれもアラブ人によってスペインを経て、それからヨーロッパ全土へと広まった。もっとも、北方を通って東から襲来した蛮族の登場後には、すでに別の形をとっていたようだ。彼らは超自然的な力の発見にしか興味がなく、それらは人間の最初の専有物であり、創造物を自在に操れるのに、「永遠」の声が彼らに強いたその名に異議を唱えていた。

それ以後、真理の光が世界を満たし、衰退した魔術師たちの経験は貴重なものとなり、世紀(時代)が進むにつれ、次第に残りの国々でも失われてしまい、今日において魔術は、その法則を分析され馴致された、一種の失われた科学、もしくはその類似物とみなされている。

それにもかかわらず、エジプトは伝統を力強く保持してきた。カイロ、ナイル川のほとりで、占い師たちは現在もまだ巨大な名声に囲まれた、恵まれた環境にある。彼らにとって問題は呪いをかけることでも、不幸を予言することでもない――彼らはチロル地方やスコットランドまでを見晴らす第二の眼は持っておらず――彼らの科学の本質は降霊術にある。偶然とった子供の掌のくぼみに、とある集会でいかなる人物の名前が発せられたか、また、その人物がなにをしたかということが、その子によって描き出される、その子はなにも見ていないのだが、その面立ちのもとに自ずから現れているというのだ。

もっとも著名なアルビ(魔術師はこのように呼ばれている)は何人ものヨーロッパ人旅行者の面前で働く栄誉に浴しており、その文書はむさぼるように読まれた、また一般に、彼は十分な成功を収めており、その栄光を危険にさらす必要はなかった。一度その人物に会い、魔術の現場に立ち会って、自分の目で東洋の不思議を確かめてみたい。そう思っていたところに、機会が訪れた。
カイロ、このエジプトの首都に存在するホテルのひとつでそれは起きた。いくつかの議論が交わされたあとで、われわれのあいだで偉大なるアルビのことが話題に上った。全員一致で彼を呼ぶことに話が決まった。テーブルにいるのはほとんどがイギリス人だった。

夕食も終わりに近づいたころ、魔術師が到着した。部屋に入り、軽く頷くと、サロンの隅に置かれた長椅子に座ろうとした。しばらくして、コーヒーとパイプを、まるでそれらが自分の重要性の証左であるかのように受け取り、思い沈んだ様子で、集まった者たちを探るように見渡した。占い師はアルジェリア出身だった。彼の顔つきに優雅なところはまるでなく、目つきは鋭く、ほとんど閉じており、髭はごま塩で口を小さく見せ、唇は薄く締まっていた。顔立ちは全体にエジプト人よりもほっそりとしていて、ベドウィン族に較べると平然として無作法な印象を与えた。背が高く、高慢で、人を見下したような態度をとり、自分のことを優れた人物とみなしていた。

我々が煙草を吸い終えるあいだに、こちらにはトルコパイプ、あちらには水パイプが、そしてアルビは自分のいる隅っこで微動だにせず、我々の表情から、どの程度ものにできそうか読み取ろうとしていた。それからおもむろにポケットからカラム(羽ペンのようなもの)とインクを取り出して、コンロを用立て、長い巻物の上に摩訶不思議な文章を次々に書き連ねていった。それらの文章を引き裂き、次々に火に投げ入れる、すると妖しげな力が働きはじめた。子供が一人招き入れられた。ヌビ地方出身の7歳か8歳の子で、われわれの招待客の一人に奴隷として仕えていた。最近自分の国から着いたばかりで、肌はアルビの使うインクのように黒く、非常にゆったりしたトルコ衣装をまとっていた。魔術師は少年の手をとり、魔法の液体を一滴落とすと、それを葦のペンで広げた。それから少年の顔をなにも見えなくなるまで両手に近づけさせ、自分は部屋の一角、少年の近くに我々のほうに背を向けて陣取った。

――レディ・K! 見物人の中でも激しやすい一人が叫んだ。少年は、束の間ためらったあと、弱々しい声で話始めた。――なにが見えた?少年の主人が尋ねた。 アルビは、いっそう真剣になって、もぐもぐと魔法の言葉をつぶやきながら、すべての紙を燃やしていった、それから法衣の下からかなり大きな一握りの紙束をとりだした。――見えるよ、ヌビの少年は言った、たくさんの旗、モスク、馬、騎兵、音楽隊、ラクダ… ――どれもレディ・Kに関係のないことばかりだね。常識的な人物が低い声で私に囁いた。――Shouf ta'ib! Shouf ta'ib! もっとちゃんと見て!どうしてもレディ・Kを想起したい見物人が叫んだ…少年は沈黙し、口ごもった。それから彼は、一人の人物を見た、と宣言した。――女性か?男性か?――女性です!――アルビは我々がすでに十分疑い深くなっていることに気付いた。――どんな女性だった?――美人で、きれいな服を着て、肌が真っ白でした、少年は答えた。花束を手に持っていました。バルコニーに立って、きれいな庭を眺めていました。

あの黒人の小僧は時々ローレンスの写真を見ていたんだろう、少年の主人が隣の男に囁いた。その通りなのだろう。もっとも何者かが乗り移ったようには見えなかった。少し経って、というのも言葉をゆっくりと途切れがちに発するからだが、――それに、少年は言葉を継いだ、その女のひとには脚が三本ありました!


今回はここまで。では、また。
Au revoir, à la prochaine fois!
Chartres 駅。

0 件のコメント:

コメントを投稿