2013年2月24日日曜日

肉と体

肉体は悲しい。ああ!私はすべての書物を読んだ
――ステファヌ・マラルメ 『潮風』
 

今日はフランス語のお勉強といこう。

上に引用した詩人マラルメの文章、「肉体」にあたる単語は2つほど考えられる。ひとつは一般的によく使われる男性名詞、corps 。もうひとつはあまりなじみのない、女性名詞の chair のという単語。ここでは後者が使われている。上記の文を原文に戻してみると、

La chair est triste, hélas ! et j'ai lu tous les livres.
となる。

それぞれの単語の意味を個別に見ていこう。

chair をロワイヤル仏和中辞典第二版で調べると、次のような意味に当たる。
 
① 肉(体) ② ひき肉 ③ 果肉 ④ 肌(色) ⑤生身

chair の概念を最もよくあらわしているのが、「la chair et les os / 肉と骨」という使い方。つまりchair とは、体から骨を除いた部位のことだといえる。なんとまあ、実にニクニクしい単語だろう。

一方の corps 。これも同辞書で調べてみると、
 
① 物体 ② 身体・肉体 ③ 胴体 ④ 死体 ⑤ 身柄 ⑥ 本体 ⑦ 団体 ...

といった具合だ。
要はこちらの単語はそのまま日本語の「体」に当てはめることができそうだ。その抽象性も含め、実にしっくりとくる対応だろう。

ここからは余談。このchair という単語、どうやら象徴派の詩人たちに好んで使われていたらしく、マラルメと同時代の詩人、ヴェルレーヌも1896年に同名の詩集を出版している。おそらくは、使い古された身体(corps)に対する反逆なのだろう。

一方で、同時代の小説家、アナトール・フランスは、corps を使ってこんな風に書いている。

L'ame [...] est la substance ; le corps, l'apparence.
精神とは本質であり、肉体とはうわっつらのものである。

うーん、なんという肉体と精神の二元論。また、少し下った時代の天才少年、レイモン・ラディゲの長編処女小説のタイトルは、『Le Diable au corps / 肉体の悪魔』だった。ここでも、corps が暗示する精神 esprit âme との対比が生き残っているようだ。

最初に引用したマラルメの文章元は、詩 BRISE MARINE / 潮風 から。逃避を主題にしたこの詩を書いたマラルメ、逃れたかったのは、使い古された「身体」のあり方だったろうか。

Au revoir et à bientôt !
Le chaire / 説教壇。日本で見ることはまずない
 
参考辞書:ロワイヤル仏和中辞典 第二版(旺文社), Wictionnaire
 

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