――どうぞ。
――チェスで黒が先手を取るのはルール違反ですよ。
『Le Club des Incorrigibles Optimistes』 が面白い。800p近いヴォリュームの、まだプロローグと第一章しか読んでいないが、この雰囲気、会話、文章のリズム。大好きだ。2009年の高校生が選ぶゴンクール賞を受賞したこの作品、あらすじを簡単に紹介すると、
1959年、パリ。 12歳になる Michel は、パリのカフェやビストロで、親友の Nicolas と共に、ベビーフットに熱狂する毎日を送っていた。 学生相手には無敵の強さを誇る Michel-Nicolas のコンビは、気が向くと、Denfer-Rochereau 広場にある、大人達がたむろするBalto という Aubergne 地方の料理を供するビストロに、足を運ぶ。 Balto の常連には、1対2で、相手をしても決して負けたことのない、ベビーフットの名手の Samy がいたからだ。
Balto の奥には、ビロードのカーテンがかかったドアがあり、時折、中年の男達がドアの向こうへ消えて行ったが、Michel のベビーフット仲間に、その部屋で、何が行われているのかを知る者は、いなかった。
ある日、飲み物を給仕したウェーターの Jacky が、ドアを開け放しにした折に、Michel は、ドアに近づく。 カーテンをめくるとドアに、『Le club des incorrigibles optimistes』と書かれた札が、掛けられていた。 好奇心に駆られ、その部屋に足を踏み入れた Michel は、チェスを挟み向かい合った男達の中に、ジョゼフ=ケッセルとジャン=ポール サルトルの姿を認める。
その部屋は、鉄のカーテンで遮られている東ヨーロッパ共産圏の国から来た、亡命者達が集る、チェスクラブだったのだ…
(『フランス語の本の読書記録』さんから引用させていただきました。URLは一番下にあります)
物語のスイッチは、12歳の早熟な少年 Michel がそのチェスクラブで受け入れられ、亡命者達からチェスを教わりながら東の話を聞くことで入れられる。チェスが物語の様々な場所で重要なファクターとなっているのを見るにつけ、またチェスと深い関わりのあったヴラジーミル・ナボコフのような亡命作家のことを思うにつれ、東ヨーロッパとチェスの深い相関性に思いを馳せずにいれない。
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ガルリ・カスパロフ |
1996年2月10日はIBMが開発したチェス専用スーパーコンピュータDeep Blue / ディープ・ブルー が、当時のチェス世界チャンピオンGarry Kimovich Kasparov / ガルリ・カスパロフを破った日である。もっとも、最終戦績はカスパロフの3勝1敗2分。人類の頭脳が1秒間に2億手の先読みを行うスーパーコンピュータに勝利したわけだ(翌年はディープ・ブルーがカスパロフに勝ち越している)。
この記事を読んで、Wikipedia でいろいろと調べていたのだが、これが面白い。カスパロフの経歴もとんでもないし、世界最強のコンピュータチェスプログラムを作ろうという試みは、ヒドラプロジェクトとして続いているらしい。チェスの世界ではプログラムが人間に負けることはほとんどないところまで来ているようだ。
あるいは将棋の世界では、プログラムはまだそこまでで強くない。取った駒を使用できる性質上、打つことのできる手がチェスに較べて圧倒的に多く、その分プログラミングにも複雑性が要求される。だが、そう遠くない未来に、機械が人間を凌駕することだけは間違いないようだ。
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Deep Blue |
アリマアの面白い点は、可能な手を端から検索するなど、いわば「力技」ともいえる従来の方法は通用せず、強いアリマアプログラムを作成するためには違ったアプローチが必要になると考えられる点にある。つまり、これまでのチェスプログラムとはまったく発想の異なるアプローチをしなければ、人間の頭脳を打ち負かすことはできない。
そう、これは新しい思考の発見であり、人間とコンピュータの新しい可能性の発見である。なんともわくわくする素敵な挑戦ではないだろうか。
Au revoir et à bientôt !
参照URL: Wikipedia 各ページに名前から飛ぶことができます。
フランス語の本の読書記録 日本語でのフランス現代文学紹介はここが一番では?というくらい充実しています。オススメ。
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