2013年12月12日木曜日

神の悪戯心すら萎えさせる偶然の話――スティーヴンスン『新アラビア夜話』

『ルパン3世vsコナン the movie』に先駆けて、先週の金曜ロードショーでTV版2時間スペシャルをやっていた。

内容のほうは…まぁ、触れないほうがいいことも世の中にはある。突っ込みどころ満載のこのスペシャルだが、まとめてしまうと、「SP弱すぎぃ!」「コナン君超人すぎぃ!」「警備ザルすぎぃ!」といったところだろう。個人的には「偶然に任せすぎ」な点が、一番気になった。

確かに、偶然は物語の重要な要素だ。二人の人物が出会うために偶然は欠かせない。一方で使いすぎると、作り物めいた印象がぬぐえない。

この「過度な偶然性」が気にならない人なら、スティーヴンスンの『新アラビア夜話』も楽しめるだろう。

千夜一夜物語を下敷きにしたストーリーは、ボヘミアの王子フロリゼルとのかかわりを持って進められる。この進め方が面白い。最初の最初だけは三人称ながらも王子の背後に作者がくっつくようにして書いているが、以降はある事件に一人の人物が巻き込まれ、その過程で知り合った王子が助け舟を出し、事件を解決する、という趣向になっている。

王子は探偵小説でいうところの探偵役を担っているのだが、登場するのはいつも物語の後半か、ほんのチラッと姿を見せるだけ。ようはこの物語、焦点が王子の活躍だけに当てられているのではなく、不思議な物語に巻き込まれた市井の人々の慌てぶりや感情の変化を愉しむものなのだ。探偵小説との違いはこのあたりにあるだろう。

それにしても、偶然人と出会う頻度が過ぎるだろう。たまたま王子と一緒の料理店に入っただけならまだしも、物語のキーとなる人物が寝台列車の隣通しの部屋になったり、名うての悪党が罪を犯すところを隣のマンションの窓から安易に見られていたり、突っ込みどころは枚挙に暇がない。偶然と不注意の、あまりにも適当なごたまぜもの。まぁ、キワモノ小説だと思って読めば十分楽しめる。

ちなみに、各物語は次のような文章によって締められる。

これで(とわがアラビア人の著者は言う)「神の悪戯心すら萎えさせる偶然の話」は終わる。ルパン3世とコナンの対決は現在劇場公開中であるが、明らかな理由から私は見ないことにしている。フロリゼル王子と本の内容に興味を持たれた方は、光文社古典新訳文庫の『新アラビア夜話』をお読みになると良い。

Au revoir et a bientot !


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