2013年8月24日土曜日

映画 『31年目の夫婦げんか』――1時間40分の超大作缶コーヒーCM

31年も連れ添ってきたんだ、夫婦間に問題があるはずがないだろう?
――そうだな、そう思うしかないよな。

結婚して31年目を迎え、変わり映えのしない毎日を送っていた妻のケイは、もう一度人生に輝きを取り戻そうと、夫のアーノルドを無理やり連れ出し、1週間の滞在型カウンセリングにやってくる。カウンセラーから予想もしなかったさまざまな“宿題”を課されて驚くケイは、次第にため込んでいた感情を吐き出していき、口の重たいアーノルドも本心を打ち明け始めるが……。(『31年目の夫婦げんか』映画案内より引用)

夫婦間の溝に悩む妻と、それに気づかない夫。ありがちな設定を主演のメリル・ストリープトミー・リー・ジョーンズが見事に演じる。陳腐だけどそれだけに、あぁこんな夫婦絶対いるよな、って妙な説得力がある。

夫婦間の溝に沿って問題を語ろう。
男だってもちろん、その存在に気づいている。目をそらしているだけだ。彼はふとそちらのほうを向いて、長年に渡って穿たれた溝の深さを前に唖然とし、自問する。いったいこいつはいつの間にできたんだ、と。そして、そこから目をそらす。

女は違う。その溝に臆面なく立ち向かおうとする。その巨大な間隙を、なんらかのもので埋めようと、飛び越えて距離をなくそうとする。虚無には耐えられない。だが、そうするのは男の役目だ。だってわたし、女の子だもん。

ずるい大人の男と女。両者が溝を隔てて向かい合う。女は声をかけて男を呼ぶが、男にその声は聞こえない。聞こうとしない。女の戯言より、ゴルフのトップフォームを確立することのほうが大切だ。

で、その溝って結局なによ?PVでは失われた夫婦の絆を取り戻す、なんてキレイごとを並べるけれど、それはつまるところ肉体関係の欠如、セックスレスに行き着くのだ。なんて浅い溝!って笑えるうちはまだ夫婦仲のいい証拠だろう。たぶん、当事者たちにとって、かなり、切実だ。

これはセックスレスの中年夫婦が、いかにして再びセックスを始めるかの物語だ。こんな風にまとめるとつまらなさそうに思えるかもしれないが、私は1時間40分、退屈しないで見れた。大筋を追いかけるよりも、時折飛び出してくる細部の欲求不満のエネルギーの表出が好きだ。

カウンセラーに質問されて、自分の性的妄想(オフィスで机の下にもぐりこんで、フェラチオをしてほしい!)を話す主人公や、港近くのカフェで「この中で最近セックスをしてない人?」と聞かれ、沈黙した挙句、指摘されておずおずと手を挙げる脇役が私は好きだ。

それに対して、正直妻の欲求不満は物足りない。オナニーは最近してないし、性的妄想はこれまで考えたこともない。性的にかなりおくてで、これまでオーラルセックスをみたこともきいたことも、もちろんやったこともない。これで若さもなく、、スタイルのよさもなく、魅力もない。同情するぜ、旦那。あんたの欲望は一生宙吊りのままみたいだな。

映画では夫妻が抱えてきた問題を1時間半かけて掘り起こし、10分で解決する。もちろんハッピーエンドが宿命付けられている。すごいな、どうやったんだ?と聞かれても観客の誰も答えられない。駄作だって?そうかもしれない。

じゃあ、こんな案はどうだろう。

結局二人の仲はもとに戻らない。夫婦は離婚する。ハッピーエンドにしたいなら、円満離婚もいいだろう。ある日、元夫がビーチを散策していたとき、元妻がもう一度ビーチで結婚式を挙げたい、と語っていたのを思い出し、感傷に浸る。素晴らしい文句をそのまま使えば、

「この星では、別れなければ出会えない」 缶コーヒーのBOSS、レインボーマウンテン

このろくてでもない、すばらしき世界。

Au revoir et a bientot !


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