2013年8月1日木曜日

たくさん読み、たくさん書く

小説作法についての本ほど読んで空しいものはない。

古今東西小説に関する様々な本が出版されてきた。そして最後にはいつも、「才能とはなにか」なる問いに行きつくのが常だ。なぜだろう?

答えは簡単だ。それらの本を書くのが小説家として成功した人々だからであり、彼らは当然、「自分には天賦の才がある」と思いたがる。

それに対し、本書の著者であり、世界的に著名なホラー作家、スティーヴン・キングは言う。3流が2流になること、1流が超1流になるには努力だけではどうにもならない。しかし、2流のもの書き(多くの一般的な書き手)が、自己研鑽を重ねて1流になることは可能だ、と。

『書くことについて』と題されたこの本で、キングはその方法論を惜しみなく開示している。多くはキングの経験に基づいた、転用の不可能性が疑われるものだけれど、それは仕方のないことだ。自分の価値観を築くこと、つまり自分のやり方に自信を持つためには、キングの言うように、たくさん読み、たくさん書く  しかないのだから。

最初の一章「履歴書」では、自身の生い立ちや作家を目指したいきさつを語り、次の「道具箱」では、小説を書くために必要な道具、語彙(大きさじゃなくて、どう使うか)、文法(副詞はタンポポだ、放っておくとすぐにいっぱいになってしまう)、文法作法について語る。面白いのは次の「書くことについて」と題された一章で、ここでキングは、「なにを、どうやって書くか」を赤裸々に語っている。

「なにを書くか」について、答えは明快だ。自分の書きたいことを書く。それだけだ。

一方、「どのように書くか」。その手法部分がとりわけ面白い。最初に「状況設定」を考える(もし吸血鬼がニューイングランドの小さな町にやってきたら?)。プロットは(ほとんど)存在しない。大事なのはストーリーだ。ストーリーは自然にできていく(作者はそれを、地中に埋もれた化石を掘り起こす作業に例える)。ストーリーとプロットはまったく別物だ。ストーリーは由緒正しく、信頼に値する。プロットはいかがわしい。自宅に監禁しておくのが一番だ。背景描写や会話や人物造形は、大事だけれど些細なことだ。そしてテーマ。それは最初から考えるものじゃない。後見直してみて、作中に自然に浮かび上がって来るものだ。

この本でもうひとつ面白いのが補遺その一、「閉じたドア、開いたドア」だ。そこでは具体的に、なにがよくてなにが悪いか、文章を添削して説明している。

小説家志望の若者がこの本からなにを得られるか?たくさん読み、たくさん書くという当たり前のことと、小説の方法論は自分で学びとるしかないことの再確認。実践的に使えるのはこれくらいだろう。

もうひとつ、この本には優れた効能がある。読み終えると否応なしに小説を書きたくなることだ。読者にそう感じさせる以上、これは実に優れた小説作法本である。

Au revoir et à bientôt !
 
参照:『書くことについて』 / スティーヴン・キング 著 小学館文庫


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