2013年3月9日土曜日

南米独裁者の系譜とチャベスの死

"Hugo Chávez est mort / ウーゴ・チャベスが死んだ"。

6日朝、Le monde から送られてきたメッセージを携帯で確認する。その短文は虚飾がなく、このベネズエラ大統領の死に、微塵の疑いを差し挟む余地すら与えない。

そうだ、これは「きょう、ママンが死んだ」から始まるあまりにも有名なカミュの小説、『異邦人』に対する忠実さだ。誰かの疑いえない死と、その死に対する無関心にこの世は溢れている。南米一の反米大統領の死も、数日経てばすぐにメディア上から消えてしまうこの極東の地で、死者について語るには、物語の形式をとるしかない。

 となると、ここでウーゴ・チャベスの大統領としての業績を数えあげるのは相応しくない。実際になにをしたか、と問われると、自分が大統領の座に長く居座るために憲法を改正した、報道規制、貧しい人々からの支持を得るためにポピュリズム的政策に終始した一方、ベネズエラの主要産業である石油利権を一身に集めていた…など、ネガティブな表現が並ぶ。だが、これは資本主義の側の論理であり、彼を一面から見ることになる。

チャベス大統領の真骨頂は、単純明快な反米姿勢(反ブッシュ)と、そのユーモアあふれた言動だろう。イラク戦争へと向かったアメリカに対する反米姿勢に、共感を持った日本人は少なくないはずだ。彼はブッシュを指差し、自身の死を告げる Le monde の一文とは位相の異なるレトリックで全世界に向けて語る。

この宇宙に存在する最も邪悪な存在!悪魔の象徴!それは、ジョージ・W・ブッシュ

2006年9月20日、国連総会にて行われた一般演説においては、
この場所にかつて悪魔がいた。いまだに悪臭が漂っている
と言い、厳かに十字を切るパフォーマンスを行い会場をどよめかせた。その後、聴衆に向かってノーム・チョムスキーの本を読め、と語るこのセンス。

あるいは、
「(オバマ大統領、)社会主義陣営にいらっしゃい。一緒に『悪の枢軸』と戦おう
と相手の言質を逆手にとれるこの機知には、賞賛を送る以外のすべを知らない。

より彼のことを知るために、南米独裁者の系譜を辿ることが必要だ。ピノチェトにトルヒーヨ、私が主に知るのはこの二人だが、それ以外にも例は事欠かないはずだ。なぜ南米に独裁者が多いのか?おそらくは南米に限った事象ではないはずだが、こう自らに問うことは人間と国家との関わり合い方に、冷静な視点を取り込むことになるだろう。

その時間がなければ小説を読むことだ。『族長の秋』に『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』。後者は現在の西洋文明下に住む我々とダイレクトに繋がっており、前者は独裁政権下に生きた人々の過去と、今に生きる我々とを結び合わせてくれる、ただしめちゃくちゃな結び方で。

そうだ、チャベスこそはマルケスの書いた牛のような大統領、ミノタウロスの完璧な似姿だった…。そう考えて『族長の秋』を読み直してみるのも悪くない。

Au revoir et à bientôt !
 

0 件のコメント:

コメントを投稿