2014年8月9日土曜日

書かれなかった過去を振り返ろう 5/6 ――世界の果ての通学路

すごく良いドキュメンタリー映画。「日本に生まれた幸せ」ってよく言われるが、普段実感することはなかなかない。これはそれを感じさせてくれる貴重な映画だ。


学校に行くために、毎朝ゾウに襲われる危険を冒しながら、アフリカの赤銅色の大地を駆ける二人の兄妹がいる。妹と共に馬に乗って通学する、アルゼンチンの12歳の少年がいる。ボロボロの車イスを押して、泥道や川を越えるインドの三人兄弟や、週末だけ家に戻り、週の始めには22kmもの距離を歩いて通学するモロッコの少女がいる。

日本にはない地形、風景。野生のゾウやキリン、サイが利用する同じ道を通って、兄と妹は学校へ走る。ときに野生動物の襲撃を恐れ、岩肌をよじ登って遠回りをし、あるいは草むらに身を隠す。そんなところにも学校は存在するのだ。まず、そのことに驚く。

週に2回、少女は学校までの道のりを歩く。22km、石ころだらけの山道を、近くに住む二人の友達と一緒に。何時に起きる必要があるのだろう?5時にはもう、両親の住む家を離れ、学びの宿舎に向かっている。

馬なんて、日本ではもう神話的生き物だ。街中で見ることはまずない。それはイベント、祝祭的な動物だ。アルゼンチンの12歳の少年にとって、馬に乗ることは日常だ。小さな妹を連れて、馬に跨り、学校に向かう彼の姿は、日本に住む私には少年神のように見える。

インドでは、まだ日本的にも見慣れた光景がある。3人の兄弟が電柱の並ぶ道(そういえば、最近では電柱もあまり見なくなった気がする)を、車椅子を押して進む。
長男は脚が悪い。でも二人の弟は兄のことを誇りに思う。だって彼は勤勉で、頭がいいからだ。自慢の兄を、二人は毎朝車椅子に乗せていく。舗装されていない道を行くことは困難だ。彼らにとって通学は、毎日冒険だ。

映画だから描かれていない事実もある。同じように苦労して学校に行っているからといって、みながみな彼らのように勤勉で意欲的に学んでいるわけではない。それは映画の外にある事実だ。パンフレットではその事実は隠されていない。

映画に映る彼らはみな、まぶしい。自分の勉強が、未来に繋がっていることを強烈に信じている。それは、今の日本にはない。選択肢の多様さが、活力を奪っている、という面もあるように思う。

学校は嫌いだった。でもこの映画の、喜びを全身から発散する子どもたちの姿を見ると、あらためて、学ぶことは止めないでいようと思う。もう学校に行くことはなくても、図書館へ、書店へ、職場へ、世間へ、学びに出かけよう。馬の代わりの自転車に乗って。

Au revoir et a bientot !

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