2014年1月13日月曜日

『マネー・ボール』片手に球場入り

「流行りモノだから」読まない、聞かないって態度は、自分の関心と流行を作り出すメインストリームとの距離がしっかり掴めている限りにおいて、役に立つ。

人生の限られた時間のなかで、自分の好きなものを追うだけでも十分でないのだから、まずは「捨てる」ことが優先される。大多数のものを切り捨てた後に初めて、自分が関心のある分野にどっぷりと浸かり、なにを読むか吟味する。正しい判断だ。

ときに自分の関心の先が流行りモノに向いていることがあるだろう。そんなときはよく考えてみたほうがいい。「流行りモノだから」といって、無差別に切り捨ててしまうのはおろかだ。それではその分野の最良のものを見落とすことにもなりかねない。流行はときに、その分野の最良のものだけを取り出し、持ち上げることがある。

まあ、そんなことを考えながらってわけじゃないんだけど、先日ようやく『マネー・ボール』を読んだ。やばいね、面白いわこれ。(著者:マイケル・ルイス)

日本のプロ野球およびそのファンのあいだでもようやく、マネーボール理論ひいてはセイバーメトリクスが重要視されるようになってきている。偉そうに書いている私も、そもそもそんなデータがあることすら、ごく最近まで知らなかった。これは、セイバーを球団経営に先駆的に取り入れた、、2000年代前半のオークランド・アスレチックスの快進撃の物語だ。

アスレチックスのGM(ゼネラル・マネージャー)に就任した元メジャーリーガーのビリー・ビーンは、「どうしたら少ない投資額でたくさん勝つことができるか(=大きな見返りが得られるか)?」と考えた。

多くの人間が抱くこの疑問に、ビリー・ビーンはこれまで重要視されてこなかった数字にスポットを当てることで解決しようとする。多くの球団が選手獲得の目安としていた打率や打点、盗塁数といった数字に着目する代わりに、出塁率や長打率といった、これまでおざなりにされていた数字の重要性を見出し、結果としてこれまで正当な評価を得られていなかった選手たちを格安で獲得し、チームの勝利に結び付けていく。その発想の根本には、野球を「27のアウトを取られるまでにどれだけ得点できるか競うスポーツ」と定義付けられる明晰さがある。

ここまでが『マネー・ボール』の内容。原書は2003年に出版されており、それから10年が過ぎた現在、状況はまた変化している。
たとえば出塁率重視の傾向。この考え方の有用性が明らかになった今、出塁率の高い選手は以前ほど格安で取ることはできなくなった。それはつまり、金満球団と同じ土俵で争うことに等しい。それでは、勝てない。そんなわけで現在のアスレチックスはこの本ではあまり肯定されていない盗塁やバントも使っていく戦い方にシフトしていっている。マネーボールはまだ進化の途中にある。

もうひとつ、本書でも触れられているが未解決な問題がある。守備や走塁がセイバーメトリクスではあまりに軽視されている。明らかにここには議論の余地がある。結局のところアスレチックスがポストシーズンで勝てていないのは、そこに要因があるとも考えられるのではないか。

なんにしろこれは実に刺激的な本だ。「最良のビジネス書」と評した書評もあるくらい、他の分野でも役に立つ。もっともその評価は転じてみれば、「ビジネス書なんておしなべてクソだ」って言っているようなものなのだけれど。まあ、それには私も全面的に賛成だ。

Au revoir et a bientot !

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